アメリカの歯科医と3Dプリンティング

「これは、すごい」素直にそう思った。
これというのは、妻の歯の治療に同行したときに出くわしたものである。幸い、自分は、歯の治療をあまりしたことがないが、誰でも歯の治療は、気が重くなると思う。

あの特有の歯を削る機械の音に加え、口を開けて、なされるがままにしなければならないことは何とも苦痛だ。加えて、治療が終わるまで続けなければならない通院。歯科治療と聞いただけで、気が重くなる。

しかも、ここはアメリカだ。前回、歯石を取った時は、力強くて、がしがし歯石をとってくれるのはいいが、あまりに不器用で、いまだかつてないほど、口の中が血だらけになってしまった。

血の味を感じたのは、子供のころに怪我したとき以来かもしれない。そんなアメリカでの歯科治療。繊細さのかけらもない。

妻が、どんよりしてしまったのは、無理もない。ところが、ところがである。妻の歯の治療は、1時間半の治療で終了、というより完了したのである。しかも、治療のクオリティーもかなり高いようだ。もう通院の必要もない。

「1回で終わる、通わなくてもよい歯医者」とは、とても新しいと思った。

日本の歯医者なら、2ヵ月コースくらいの治療だ。実は、それを可能としたのが、3Dプリンティングである。ミッションインポッシブルで、そっくりな顔のマスクを形成するときに出てくるあれである。

最近では、ひとり家電メーカーなどのテーマで出てくるし、いつか欲しいと思っていた代物だ。思わぬところで、その3Dプリンターに出くわした。 目の前で実演してくれたので、
臨場感があったが、文章では再現できないので、簡単に手順を書くと、

1.被せものを取った後に、歯を撮影し、3D化していくのであるが、あっという間に、歯並びの立体構造の映像が出来上がる

2.立体映像に基づき、噛み合わせがどうなっているか、歯のどこに圧力がかかっているか、どういう歯にするとうまくはまるかと  いうのを自動計算し、被せる歯の最適な立体構造を設計してくれる

3.歯科医が、自動設計された歯を目視しながら、微調整をする。横の歯との接点のくっつき具合や噛み合わせまで確認できる優れものである。

4.自分の歯の色にあった色を選ぶと、3Dプリンティングの機械で、被せるセラミック歯を形成してくれる

5.セラミック歯がうまくはまるかを確認したら、オーブンで焼いて、出来上がり。あとは、接着・調整するのみ。

という感じだ。

このやり方だと、その場で、本当に自分向けにピッタリのものができるので、歯を付けた後の調整も簡単に済むし、歯形を取って、歯科技工士が 歯を形成するのを待つ必要もない。職人技も不要というわけだ。

この歯科医は、5年前から3Dプリンティングを取り入れているらしく、「私もナイスな人でしょう。あなたもナイスな人でしょう。でも、誰も歯の治療に長い時間かけたいと思わないでしょう」と言っていた。

気が重くなる歯科治療のはずが、家内は、そのまま上機嫌で、足取り軽く、ショッピングへ出かけていった。

アメリカに来てから最も感動したできごとかもしれない。しかもその意味合いも深そうだ。

JinK.

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