志を立てることを学ぶ

書評 修身教授録

「修身教授録ー現代に蘇る人間学の要諦」というたいそうなタイトルの本を読んでいる。

本屋でこのタイトルの本を手にとって、面白そうだなとは多分思わないが、昔、勤めていた銀行の同期が強く薦めていたので、気にかかっていた。基本的に気にかかる本は、偏見なく、どんな分野の本も読んでみることにしている。アメリカに来てから、お気に入りの本屋をぶらぶらしながら、気にかかかる本に出くわすということが、日本語の本については、できなくなったので、日本の友人からの薦めはとても助かる。

この本は、大阪天王寺師範学校、現在の大阪教育大学で、先生を志す大学生に向けた森信三さんという方の講義をまとめたもので、昭和12年3月から昭和14年3月までの2年間に行われた79回分の修身の講義となっている。昭和12年〜14年というと、もちろん戦前であり、僕の両親が生まれたころでもある。会話調になっていて、平易に書かれているので読みやすいし、テーマは、謙虚と卑屈の違いであったり、誠についてであったり、読書であったり、多岐に渡るので、一日一講義みたいな読み方をしてもよい。修身といえば、戦前の道徳教育で、軍国主義を支える精神的な基盤になったということで、GHQにより廃止されたくらいの浅い認識しかなかったが、お国のためにというような洗脳するようなものではなく、一講話一講話、「これは大事だな、そうだよな」と心に滲みるような、あるいは漠然と感じていたものがすっきり言語化されていくようなそんな感じになる良書だと思う。1日本人として、海外で生きていく上でも通用する大切な心構えが書かれていて、ほとんど違和感を感じない。もちろん、時代が変わったことで、ピンとこない部分もあるが、それ以上に時代を超える真理が含まれているように思った。そう感じるのは、教科として廃止されても、やはり、文化として、あるいは、美徳として、日本人に深く根付いているからだと思う。

その中で、特に印象に残ったのが、「修身の講義とは、… ある意味では、…「立志」の一言に尽きる」という言葉だ。つまり、修身とは、生きる上で欠かせない道徳という面もあるが、その最大の目的は、人として身を修める、人となる道を教えることで、それは、自分が天から受けた本性を、十分に実現する途を見出すことを手助けするという志学教育である。志を立てることを学ぶということは、僕が受けてきた戦後の日本の教育、多分、今の教育にも欠落している部分ではないかと思う。一人一人の天分に向き合い、それを見出していくような教育ではなく、偏差値でランク付けされたいい大学に受かることに最適化されたマス型の教育システムだからだ。

以前、リーダーズというトヨタ自動車の創業期を想定した長編ドラマをみたことがある。トヨタ自動車創業者、豊田喜一郎をモデルとした技術者、愛知佐一郎を佐藤浩市が演じる。「日本人の、日本人による、日本人のための車」を創ることに人生を賭けた日本人の物語である。日本のために何が何でも自動車産業を興さなければならないという使命感、これは無理だなと諦めてしまいそうな凄まじいほどの高い目標設定、精神的に病んでしまいそうな度重なる失敗に忸怩たる思い、振りかかる困難を一つ一つクリアしていく粘り、一人一人が力を尽くし、協働するチーム力が描かれていて、感動的である。それが、夢のまた夢だった時に、いつか、世界中を日本の自動車で埋め尽くす、そう言っていた豊田喜一郎に、「世界中、いたるところ日本車で一杯ですよ、そういうことを一日本人として誇りに思いますよ」と伝えに、墓まいりしたくなるほどの心境になる。志の高さは、豊田に限ったことではなく、出光佐三、盛田昭夫、本田宗一郎、松下幸之助など昭和の経営者には、執念のような志の高さがある。昔は、追いつき追い越せだったから、簡単だったとは思わない。昔のほうが、ものもなく、条件としては恵まれていなかったと思う。恵まれなかったから、ハングリー精神があったんだよ、ということかもしれないが、そういうことを言っても、恵まれない状況になる、日本が破綻するまで待つというわけにも行かない。NHKで放送されているプロフェッショナルの仕事の流儀を見ていると、今の時代も志の高い人はいるが、どちらかといえば、バレリーナやクリエイター、職人などの個人戦が多く、日本全体の構造変化を促し、閉塞感を打破するような集団戦を率いるような志は足りないような気がする。日本人として世界を変える、その志の総和が、国力を決めるように思う。そういうことをいうと、そんんなみんな好き勝手なことをやっていたら、社会として成り立たないみたいなことをいう人が出てくるが、高い志には、夢や希望があるし、失敗や挫折はつきものではあるが、何か価値があると信じるものに向かって、力を尽くすというところに、生きる意味を実感するというものがあると思う。

とはいえ、修身は大切だみたいな話をすると、軍国主義への復活であるから絶対反対であるとか、いやいやGHQ日本人無力化プログラムの呪縛が逃れるためにも絶対に必要であるとか、そんな話になりがちである。そういうのは避けたいし、また、上から目線で、志を持てみたいな話もうっとおしい感じもするので、いろいろな機会を試していくうちに、10代の早い時期から、自分の情熱や天賦の才に気付き、失敗や挫折もありながらも、ほどよくそれを育成・支援するような多様な志学教育の支援システムがあるとよいなと思う。多分、社会イノベーター公志園はそういうものを目指しているようにも思うし、個人的には、会社の元同僚の岩田さんがやっているa.schoolの取り組みは大好きで、素晴らしく、応援したくなる。意外に、アメリカのテレビ番組Shark Tankみたいな取り組みも、仕掛けとしては面白い気がする。Shark Tankは、全米からやってくる起業家たちが、”Sharks”と呼ばれる投資家たちの前で自分のビジネスをプレゼンし、投資してもらうというもので、起業家たちが投資家たちにけちょんけちょんにやり込めらたり、筋が良ければ、投資家同士で競いあったりと、実ビジネスの厳しさとおかしさみたいなものが入っている。修身の講義からは、大分話がそれてしまったが、修身の精神は大切にしつつ、今の時代に即した立志を支える多様な面白い仕組みがもっと出てき、広がっていけばと思う。10代で、もっと多くの人に志の卵を植え付けられれば、未来の日本も世界ももっと変えられる。

JinK.

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