「ない」と言い切られるとなかなかに辛いものがあるが、僕が判断することではないので、ないと判断されるものはしょうがなく、受け入れるしかない。そもそもエグゼクティブプレゼンスと言われても、あまりピンとこないし、それが何なのかはよく分からない。確かに、僕から見ても、この人は凄いプレゼンスがあるなという人は数人いるが、なかなかそういうカリスマになれるものではない。分からないものは学べない。そう思っていた。
ところが意外なところで、面白い発見があった。数ヶ月前に、役者が講師をつとめる「リーダーシップとプレゼンス」という研修に参加した時のことだ。
役者から何が学べるのか?しかも英語で。もちろん半信半疑だ。仕事場でも演じるということなのか?でも仕事と演じるということは違うという違和感はある。一方で、Scent of Woman、God Fatherのアル・パチーノや、House of Cardsのケビン・スペイシー、Leonのジャン・レノ、The Black Listのジェームズ・スペーダーなどプレゼンスがあるし、いい味を出している役者も多くいる。別に彼らのようになれるわけでもないが、時々英語を真似してみたりしている。役を演じることから何か学ぶべきものがあるのではないか、そういう期待感もあった。
研修は、二日間。
1日目は、5人程度のグループに分かれて、グループ討議。各グループに役者の人がファシリテーターとして参加する。最初は、研修に対する期待や疑問など話を聞いていく。そのあとは、感情表現を織り交ぜた即興エキササイズ。あるシーンとある感情がお題として与えられ、それを表現する。’天気の話、悲しみモード’でみたいな感じでお題が与えられ、その場で話をする。悲しみながら、天気の話をするというのも、なかなか、いけてない感じではある。途中で、’怒りモードで’など感情モードも変えなければならないので、さらに大変だ。怒りながら、天気の話をするって、何?という感じだ。東京だったら、暑いから勘弁してくれよみたいな感じか?
英語で感情表現するのもなかなかに恥ずかしいものではあるが、こういう場合は、恥ずかしがってもいい結果が生まれないので、割り切ってやることにしている。話したあとに、他のグループメンバーからフィードバックがもらえるが、なぜかしら、JinK.の悲しみモードいいよねと、好評?だった。でも、仕事場で、怒りモードなんか使ったら、パワハラになるよね、あんまり使えないよね、という冷めた自分がいた。変わっているけど、役に立たない研修?そういう印象だった。
2日目も同じグループ。今日はそれぞれにストーリーを語ってもらいますというお題が出された。
まず、最初に、自分のこれまでの人生を川の流れに見立て、住んだ場所、就職、結婚、子供の誕生、転職など、大きなライフイベントを一枚の大きな紙にプロットし、自分に影響を与えた人物を書き加える。2人でグループを組み、それぞれの人生を語り合う。そのうえで、最も、自分の人生に影響を与えた、あるいは、印象に残ること、一つに絞り、ストーリーを作る。それをグループの前で、発表する、そういう流れになっている。
この時も、人に勇気を与えるモード、人を感動させるモードなどが与えられる。1日目は、自分の感情表現だったのだが、今回は、相手にどう働きかけたいが大きな違いだ。おおまかなストーリーは、頭にはあるが、予告もなしにいきなり当てられるので、即興でやる必要がある。しかも、話したあとにすぐにフィードバックがあり、ある箇所に絞って、即興でやり直す必要がある。これは、ノンネーティブには、かなり難易度が高い。英文を考える時間もないので、自分が思っていることに絞って、いいたいことをそのまま言うしか無い。やぶれかぶれだ。
役者は単に演じているのでなく、深く思いを育み、それを表現しているのではないか。そう気付いた時に、プレゼンスの意味がわかったような気がした。プレゼンスを高めるように努力するのではなく、心の奥底にある自分をストーリーとして表現する、それが真摯で、深いものであれば、影響力がある。そこに、結果としてプレゼンスを高める要素があるように思えた。もちろん、その表現に響く人もいれば、響かない人もいるだろう、しかし、最初の一歩は、心の奥底にある自分を表現する。そこに鍵があると思った。